将棋には各駒の特徴や手筋に関連して、様々な格言があります。
古今東西、様々な棋士たちがその豊富な実戦経験をもとに編み出された格言が多く、
示唆に富んだものが多いです。実戦ですぐに使えそうな有効な教えから、思わず首を捻ってしまうようないかがわしい格言まで
多様な教えが含まれていて、格言の内容だけでなく信頼度もまさに多種多様です。
ここでは僕の知っている格言について、その格言の内容を解説付きで紹介していきたいと思います。
その格言がどの程度信頼できるものなのか、その信頼度も僕自身の独断と偏見で5段階評価で示しました。
格言 | 手のない時は端歩を突け(信頼度★★★☆☆) |
意味 |
指す手がなくなったときは、1筋、9筋等の端歩を突いておきなさい、という意味(そのままじゃん!)。
実際、将棋には一手指すと最善形が崩れる(一手パスしたいな〜)といったことがよくありますね。そういう場合、端歩なら突いて
おいても損はないでしょ?という意味だと思います。もちろん、矢倉戦などでは当てはまらないことが頻繁にありますので、
その局面に応じて考えるべきでしょうね。
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格言 | 矢倉囲いに端歩を突くな(信頼度★★★★☆) |
意味 |
前格言とは矛盾する格言ですが、端歩を突いてはいけない例外的なケースとして相矢倉戦があるのは、皆さんも
ご存知の通りです。特に、相手が棒銀で来る可能性がある場合(相手が後手の場合、右銀が7三に出られる可能性が
残っている場合)は、相手が端歩を突いてきたときに受けてはいけない、ということです。端歩を受けると
相手の攻めが速くなってしまいますので、要注意です。
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格言 | 一歩千金(信頼度★★★★★) |
意味 |
「たかが歩でしょう?」と歩を大切にしない人が結構いますが、吹けば飛ぶような一枚の持ち駒の「歩」はどんな
局面においても非常に大切だと思います。そんな「歩の大切さ」を説いた格言が、この「一歩千金」です。この格言との
関連性の高い格言が次の格言「歩のない将棋は負け将棋」です。持ち駒に歩があるかどうかが勝敗の行方を左右する
場合も多いのです。「一歩のありがたみ」が分かるようになってくると、将棋も格段に強くなってくると思います。
というわけで、この「一歩千金」、信頼度5としました!
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格言 | 歩のない将棋は負け将棋(信頼度★★★★★) |
意味 |
「歩がない」とは、もちろん「持ち駒の歩がない」という意味です。手持ちの歩がない場合、攻め筋も味がなくなる上に、何と言っても
歩があれば平凡に受かる局面で受けがきかないなど、特に終盤の局面において致命的な敗因となります。
管理人も痛いほど経験しているので、信頼度5、です!
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格言 | 三歩持ったら継ぎ歩と垂れ歩(信頼度★★★★☆) |
意味 |
実際に三歩持つことは少ないと思いますが、受けが好きな堅実なタイプの将棋指しの方には多いかもしれませんね。
矢倉戦や相振り飛車など、玉が相手の飛車の正面に位置する戦型のときに、継ぎ歩と垂れ歩によって玉頭にアヤをつける
のに、この手筋が頻繁に用いられ、絶大な効果を発揮します。この格言は覚えておいて損はないと思います。
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格言 | 端玉には端歩(信頼度★★★★☆) |
意味 |
特に終盤戦など、相手玉が1筋や9筋に逃げるような局面がよくありますね。そのような場合、一見遅いようでも、端歩を突いて
おく手が、相手玉を寄せる際に有効になる、という意味ですね。端に玉が寄ったということは相手の下段の香車の利きが
なくなっていることが多いので、威力を発揮しますし、実際に見た目以上に速い手になっていることが多いようです。
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格言 | 金底の歩、岩よりも堅し(信頼度★★★★★) |
意味 |
終盤戦で相手の飛車の横利きを消すために、受けの手として金の底に歩を打つことがよくありますが(これを、俗に「底歩」
と言います)、これがものすごく堅い、
という意味です。これを崩すにはこの金に働きかける必要があるのですが、先に金を取ってからでないと「底歩」が払えない
ので、結構時間がかかるのです。というわけで、一手を争う終盤戦では、この手筋は非常に有効になりますので、信頼度5
としました。なお、この格言から派生したもので、「金底の歩、二歩のもと」とも言われることがあります。底歩を
打った時は、二歩を打たないように注意しましょう!(笑)
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格言 | 打ち歩詰めに詰みの余地あり(信頼度★★★★☆) |
意味 |
将棋のルールでは、歩を打つことによって詰みとなる、「打ち歩詰め」は禁止されています。でも、自分で読んだ詰み筋が
「打ち歩詰め」の場合でも、こういう状況なら他に詰み筋を探せば、本当の詰み筋がある場合が多い、というのが、この格言の
意味だと思います。事実、そういうケースも多いようです。自分で読んだのが「打ち歩詰め」であった場合、他に詰み筋が
ないか、検討してみる必要は大いにありそうですね。
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格言 | 開戦は歩の突き捨てから(信頼度★★★★☆) |
意味 |
じっくりとした駒組みの後、まず最初にぶつかる駒といえば、普通「歩」ですね。その「歩」もただ交換をして一歩駒台に乗せて
いつでも使えるようにするのも大切な考え方ですが、一気に攻め込むときなどは、場合によっては歩をどんどん突き捨てて
いつでもその筋に歩が打てる(「歩が立つ」とも表現される」)状態にしておくことが、攻めを続けるために必要になることが
結構あります。ただし、歩損をするため、その攻めが成功せずに局面が落ち着くと不利になります。
従って、「指しすぎ」にならないかどうか、十分考えておく必要はありますね。
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格言 | 横歩三年の患い(信頼度★☆☆☆☆) |
意味 |
「横歩取り戦法」が出現する前の格言で、「横歩を取った方が一歩得をするものの、手損になって悪くなる、だから横歩は取らないものだ」
という意味の格言ですが、最近、横歩取り戦法(最新流行の「横歩取り8五飛車戦法」)が流行していたことを考えると、この
格言は既に廃れてしまった、と言ってもよさそうです。実際、横歩取りの代表格でもあった「飛車切り定跡」、「4五角戦法」、
「相横歩取り」も全て、横歩を取った先手良しが定説となっています。積極的に一歩を取りに行く横歩取り戦法は、
損得を重視する現代将棋の感覚に合っているのでしょうね。
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格言 | 金なし将棋に受け手なし(信頼度★★★★★) |
意味 |
これは本当によく当てはまる格言です。金という駒は前方向横方向には全く隙がない駒なので、前方向から迫ってくる攻め(寄せ)
に対しては非常に強い受けの力を発揮します。その意味で、横に隙がある銀では代用が利かないことも多く、飛車で代用すると
便乗してコビン攻めされるなど、受けに利かないことが多いものです。というわけで、この格言、信頼度5としました。
なお、この格言から派生したものとして、「金なし将棋に詰め手なし」ともよく言われます。
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格言 | 金はとどめに残せ(信頼度★★★★★) |
意味 |
「とどめ」というのは、玉を詰める最終手段という意味です。最も分かりやすい詰み形として
皆さんもよく知っている「頭金」は、金をとどめに残したからこそ実現する形です。
1枚しか持ち駒が残っていない場合、これが金以外の駒なら、詰まないわけです。
金は玉を上部から押さえつけるのに最も威力を発揮する駒で、できるだけこのようは詰み形が想定される場合、
最後まで使わない寄せ方の方が有効になることが多いです。もちろん例外も多いですので、
その局面に応じて考えて下さい。
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格言 | 金は引く手に好手あり(信頼度★★★★★) |
意味 |
金という駒は、斜め後ろに下がれない、という弱点がありますが、この弱点は、駒が上ずれば上ずるほど大きくなります。
というわけで、上がるか下がるか迷った時には、下がるほうが好手になることが多いようです。というわけで、金という駒は、基本的
には前線に繰り出す駒ではなく、自玉を守る駒として使うべきでしょうね。対石田流三間飛車に対する棒金戦法などの
例外もありますが、とりあえず、初心者のうちは、基本に忠実に
指すほうがよいようです。
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格言 | 金は斜めに誘え(信頼度★★★★☆) |
意味 |
これは、「銀は千鳥に使え」と対を成す格言だと思います。金は斜め下に下がれないという弱点があるので、敵側から見れば、
相手の金の弱点を大きくするために斜めに誘うのが有効な手段になることが多いのです。皆さんも、斜めに誘われたら、
誘いに乗らないように気をつけましょう!金は上ずらないようにじっと引いておくほうがよいことが多いです。
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格言 | 一段金に飛車捨てあり(信頼度★★★★☆) |
意味 |
一段金の守りの威力は絶大です。その一段金が「浮き駒」になっている場合でも、飛車を打ち込む隙がなかったりして、
なかなか有効な攻めの手段がないことが多いものです。そんな時は、思い切って飛車を捨てて(場合によっては「切って」)攻め
込む手がそのまま勝ちに結びつくことが多いです。飛車を切るのは怖いという人は多いですが、自分の陣形を見て、
飛車の打ち込みがなかったら、思い切って飛車を切って攻め込むほうが分かりやすく勝てることは、実践経験で分かってくると
思います。
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格言 | 玉のそばの金を攻めよ(信頼度★★★★☆) |
意味 |
将棋というゲームは、相手の玉を先に詰めたほうが勝ち、という明確なルールがありますね。で、相手玉を寄せる上で
守り駒を剥がすこと、中でも強力な守りの金を剥がして裸にしていくことが分かりやすい寄せの手段です。その意味で、この
格言は、玉の寄せ方の基本を忠実に言い表したものとして、信頼できる格言だと思います。
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格言 | 序盤は飛車より角(信頼度★★★☆☆) |
意味 |
陣形が初形に近い序盤の場合、敵陣に飛車を打つ場所がなく、飛車を持ってもなかなか使う機会がやってこない、
それに対して、角の場合は、相手の動きに隙があれば、両成り等を見せて打つチャンスがやってくることが多い、
だから序盤は角のほうが飛車よりも働く駒なのだ、とこの格言は言っています。でも本当にそうなのでしょうかね。
細心の注意を払って指していれば、角打ちは防ぐことはできますし、飛車も後々威力を発揮する潜在的な力を持っているわけ
ですから、この格言は当てはまらない場合も多いと個人的には思います。
あくまでも局面に応じてケースバイケースで考える必要があります。
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格言 | 角には角(信頼度★★★★☆) |
意味 |
角の利き筋は飛車の利き場所に比べると分かりにくいものですね。持ち駒に角がある場合、
角の両狙い(両取り、両成など)は常に意識して指すことになります。
これは相手にしても同じことで、両狙いに角を打たれた場合、一見受けがないようでも、
角で受かってしまうことがあります。逆にそれを読み筋に入れながら指すことの方が多いです。
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格言 | 角筋受けにくし(信頼度★★★★☆) |
意味 |
角という駒は飛車と比べて効き筋が分かりにくい駒です。相手の角のラインに玉を囲うのは非常に危険で、
これは相手の角と自分の玉の間に自分の駒があっても同様です。その駒を安い駒で攻められたときに、
角のラインに玉が入っていると逃げられないことが結構あり、これをうっかりすると容易に駒損してしまいます。
これが飛車であったら、効きがまっすぐなので合駒で受かりやすいのですが、角の場合はそうはいかないことが多く、
細心の注意が必要となります。有段者でさえも角筋はうっかりしやすく、
将棋の経験の豊富な人ほど、この格言の意味は実践で痛いほど経験しているはずです。
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格言 | 遠見の角に好手あり(信頼度★★★★☆) |
意味 |
これは前出の「角筋受けにくし」と似たような格言です。
「遠見の角」というのは自陣角のことで、相手の玉を遠くから睨む位置に打つ角のことです。
角の強さというのは、馬>持ち駒の角>盤上の生角というのが一般論で、この「遠見の角」は「盤上の生角」ですから、
一見するとつまらないようですが、そこが将棋の面白いところで、必ずしもこの一般論は成立しないわけです。
香車を取っただけで盤上の端っこで遊んでいる馬と相手の玉を遠くから睨む絶好の生角(遠見の角)とでは、
当然のことながら後者の方がずっと働きの良い駒になっています。遠く敵陣を睨んだ角の威力も相当のもので、
これは前出の格言のように、角筋が受けにくいからこそ、と言えます。
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格言 | 角換わり将棋に5筋を突くな(信頼度★★★★☆) |
意味 |
将棋の戦型で序盤に角交換をするのが「角換わり戦」です。「5筋を突くな」というのは5筋の歩を突くな、という意味で、
先手なら5七の歩を5六に進めてはいけない、後手なら5三の歩を5四に進めてはいけないということです。
何故いけないかというと、先手からは7一角、後手からは3九角と飛車取りに打たれて飛車を逃げる一手に馬を作られてしまう
隙ができるからです。これを避けるには右の金をそのまま置いておかなければならないなど、自然な駒組が難しくなってしまいます。
角換わりには5筋を突かずに腰掛銀にするか、または棒銀で行くのが有力です。
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格言 | 振り飛車には角交換を狙え(信頼度★★★☆☆) |
意味 |
居飛車対振り飛車の戦いで(便宜上、先手居飛車、後手振り飛車とします)、先手居飛車は飛車先を2六歩、2五歩と進めていって、
飛車先の歩を交換できれば一応成功ですが、その交換を阻んでいるのが後手の3三にいる角です。この角を自分の角と交換して
角がいなくなれば飛車先の歩を交換できる形になりやすく、さらに振り飛車陣は角の打ち込みにも弱いので、
角交換は居飛車にとって得である、とこの格言は教えています。旧来から居飛車対振り飛車は居飛車側が振り飛車側に対して
角のラインをこじ開けにいき、振り飛車はそれを何とか阻むという駆け引きが実戦で繰り返され、定跡を作り上げてきましたが、
最近は「角交換型四間飛車」、「ゴキゲン中飛車」など、振り飛車側が序盤早々自ら角交換をどうぞ、と言ってくる新しいタイプの作戦も登場し、
序盤の常識を覆してしまいました。それでも従来の定跡形を指す場合には、この格言に従った方が無難と思います。
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格言 | 馬の守りは金銀三枚(信頼度★★★☆☆) |
意味 |
王様の近くに馬がいる場合、その守り駒としての強さは金銀三枚に匹敵するほど強力だという意味の格言です。
しかし実戦経験から言っても、僕自身は本当に金銀三枚もの強さがあるという実感はないです。
2枚分は確実にあるとは思いますが・・・。このように将棋の格言というのは結構大げさなものが多いですね。
「玉の早逃げ八手の得」というのもいかにも大げさですしね。
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格言 | 馬は自陣に引け(信頼度★★★★★)(馬は自陣に、龍は敵陣に) |
意味 |
上述した「馬の守りは金銀三枚」と関連の深い格言です。馬は攻め駒にも守り駒にもなりますが、
駒の特性上、攻め駒としての威力は龍には及ばない一方、守り駒としての働きは龍と同程度の威力があります。
また龍は自陣に引き付けると攻め駒としての威力はかなり落ちますが、馬は自陣に引き付けても遠く敵陣を睨んでいたりと、
攻め駒としての力も残った状態となります。玉の守り駒は通常は金銀ですが、金が斜め下に弱点を持っていて斜め下から銀や角を掛けられる手が
嫌味になるのは皆さんも実感している通りですし、銀の場合は真横や真下が弱点になり結構隙が多いことも実感していると思います。
ところが馬にはそのような弱点がないわけですから結構強いです。他の駒との連携なしに馬を責めることは結構難しいです。
そのようなわけで、この格言、信頼度5としました。
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格言 | 玉の早逃げ、八手の得(信頼度★★☆☆☆) |
意味 |
これは終盤の格言です。狙われている王様を先に逃げるのが「早逃げ」ですが、これが一手または駒一枚得する場合が結構あります。
しかし「八手」というのはどうでしょうか。実際、八手の得は言いすぎです。
序盤何もないところでさえ、自分が先に3手指せるとすれば、7六歩、3三角成、5一馬とたった3手で相手の王様が取れてしまいます。
一手違いでさえ相当大きな違いに感じることも多いのに、八手というのは、いかにも言葉の遊びの感があって、
いかに冗談とはいえ、格言としてどうかと思ってしまいます。
ただ玉の早逃げで攻守や優劣が入れ替わる微妙な局面はたまに出てくるので、どう受けたらよいか悩んだ場合には、
早逃げで一手稼げないか、考えてみるとよいとは思います。
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格言 | 玉の囲いは金銀三枚(信頼度★★★★☆) |
意味 |
これは序盤の格言です。玉の囲いは金2枚と銀1枚の3枚で囲うということです。
矢倉囲い、美濃囲い、銀冠、穴熊、舟囲い、いずれも金2枚と銀1枚の囲いです。
稀に4枚穴熊(ビッグ4)、ダイヤモンド美濃、4枚矢倉など金銀4枚で囲う例外もありますが、
その分、攻め味が薄く軽くなるので、攻めにテクニックを要します。かなり強くなるまでは、玉は金銀3枚で囲って、
残りの銀1枚は攻めに使うのがバランスがよいと思います。
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格言 | 居玉は避けよ(信頼度★★★★★) |
意味 |
居玉というのは初形の玉の位置のままで居ることです。つまり先手なら5九、後手なら5一にいる玉を居玉と言います。
将棋を覚えたての初心者は玉を囲うことのメリットが分からず居玉のまま攻めることも多いようですが、
この位置はそもそも寄せやすい位置です(玉は下段に落とせ、中段玉寄せにくし、という格言があるように、
そもそも定位置の下段の玉は寄せやすいのです)。詰め将棋の問題で「桂吊るし」という詰み形がありますが、
皆さんも将棋を覚えたての頃、居玉のまま攻めて行って、うっかりこの詰みを食らった経験が必ずあるのではないかと思います。
また途中の変化で飛車先の歩を交換した際に角で王手飛車がかかる可能性がある位置でもあり、
居玉は結構隙が多く相手の流れ弾が結構飛んできます。
将棋を数多く指して実戦経験を積み、居玉のまま攻めて痛い目に遭うと、居玉でいることの不都合を身に染みて感じるのではないかと思います。
矢倉囲い、美濃囲い、舟囲い、穴熊囲いなど、いずれも玉を移動させて
完成させる囲いです。居玉の作戦としては藤井システム、横歩取り先手番の山崎流などの作戦があり、
居玉のメリットを逆用した高等戦術ですが、相当上達するまでは居玉は避けた方が無難ですし、居玉を避けることのメリットは大きいです。
序盤は玉を移動して囲うようにした方がよいです。
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格言 | 玉は下段に落とせ(信頼度★★★★★) |
意味 |
当たり前のことですが、将棋の駒は将棋盤の外に逃げ出すことはできません。これは王様も同様です。
将棋において王様は常に狙われている存在です。仮に王様が盤の中央にいる場合、この王様を包囲するには四方から
包み込む必要があり、それだけ援軍が必要です。しかし王様を下段に落としてしまえば、それ以上下には逃げられないため、
上からの攻めだけで済みます。ロープ際に追い込んでボコボコにするのと同じようなもので、
その分、下段の玉は寄せやすいわけです。終盤になると「駒の損得よりも速度」で飛車をバッサリ切って玉を下段に落として、
または思い切って角を打ち捨てて玉を下段に落として、上から金駒で押さえて詰めろをかけて一手勝ち、というようなパターンが
往々にして出てきます。大駒を切ったり捨てたりしてでも玉を下段に落とすメリットがある場合も多いわけです。
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格言 | 中段玉寄せにくし(信頼度★★★★★) |
意味 |
前出の格言とほぼ同様の意義を持つのが、この「中段玉寄せにくし」という格言です。
玉は下段に落とすのが基本ですが、それを守らずむやみに追い回すと、追い方が下手な場合、玉は定位置からするすると中段まで
逃げて行ってしまいます。こうなると下からの攻めだけでなく上からも横からも包囲する必要が出てくるので、
捕まえるのが結構大変になってしまいます。詰みを読み切っている場合はこの限りではありませんが、
そうでない場合、中段に玉を逃がさない寄せの方法を考えることが上達の秘訣でもあります。
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格言 | 王手は追う手(信頼度★★★★★) |
意味 |
「王手は追う手」とはうまいシャレですね。しかも結構言い得ています。
初心者のうちは王手するのが気持ちよくてどんどん王手をしてしまいがちですが、王手しても相手にどんどん逃げられて、
かえって捕まえにくくなってしまうことが多いです。格言ではありませんが、この格言の逆の意味で、
詰ますとき以外はなるべく王手をするな、という教えもあるくらいです。寄せるときには王手をするよりも、
相手の玉に静かに忍び寄る「待ち駒」の方が効果的なことが多いです。
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格言 | 玉は包むように寄せよ(信頼度★★★★★) |
意味 |
前出の「王手は追う手」で、無駄に王手すると、かえって玉が捕まりにくくなることを戒めた格言を紹介しましたが、
逆に言えば「無駄な王手をするな」ということです。右から攻めれば左へ、左から攻めれば右へ、下から攻めれば上へと、
王様はするすると逃げられて捕まえるのが結構大変です。従って、王様の逃げ道を封じるように上下左右から包囲していくのが
効率の良い寄せ方になります。具体的には王手をするのではなく、待ち駒で縛るのが分かりやすい寄せの手段となるということです。
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格言 | 桂頭の玉、寄せにくし(信頼度★★★★☆) |
意味 |
桂馬というのは頭の丸い駒です。桂馬の前に玉が来た場合、その桂馬が邪魔になって寄せることが難しいという状況が
往々にして生じます。終盤、桂馬は玉を寄せるときに絶大な力を発揮しますが(桂馬は他の駒との連携なしに
「取れない王手」つまり「逃げるしかない王手」をかけられるという意味で重宝する駒ではありますが、
桂馬の前に相手玉が逃げてきた場合の後続の手段を考えておかないと、失敗する場合があります。
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格言 | 長い詰みより短い必死(信頼度★★★★☆) |
意味 |
終盤は一手違いになることが結構ありますので、相手玉に詰みがある局面で詰みを逃して必死をかけると、
その瞬間に自玉が詰まされてしまう可能性があります。従って自玉が詰めろでないという自信がある局面でしか、
この格言の教えは有効ではありません。その場合は相手玉を詰ましても必至をかけても勝ちになりますが、
その場合は難解な長手数の詰みを読み切るよりも、一手でかかる必死の方が確実に勝ちになります。
というのも難解な詰みは多くの場合、相手にもたくさんの駒を渡すため、万一自分の読みに抜けがあって、
「詰ましに行ったけど、やっぱり詰まなかった」という場合、今度は自玉に詰みがある局面になっていることが
結構多いからです。2手違いの大差で勝っている将棋では、長い詰みより短い必死の方が間違いが少ないということは言えますし、
何より分かりやすいです。
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格言 | 鬼より怖い両王手(信頼度★★★★☆) |
意味 |
両王手というのは一度に2つの駒で王手がかかる状況です。このような状況は「空き王手」で実現します。
これは飛車、角、香車が間接的に相手玉を睨んでいて、その間に自分の他の駒がある状況で、
その駒を動かすと飛車、角、香車が相手の玉を直射する状況で実現します。
言葉で書くと何のことか分かりにくいと思いますので、論より証拠でここは空き王手の怖さを示す実戦例を示します。
これは実際にプロの実戦で出現したと言われている局面です。まだ序盤で何もなさそうな局面ですが、
ここで決め手があります。3三角成、この一手で相手玉は詰みになります。両王手の恐ろしさがお分かりでしょうか。
詰将棋でも詰んだ気がしない詰み形としてこの空き王手の詰め上がりが結構出てきます。
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格言 | 序盤は手得より歩得(信頼度★★★★☆) |
意味 |
手得というのは相手よりも有効な手数を多く指すことです。具体例として初形から7六歩、3四歩と角道を開けた場合に、
自分から角を交換しに行くと手損(相手にとっては手得)するからそのように指してはいけないと教わったと思います。
一方、歩得というのは相手の歩を取ることで実現します。手得と歩得はどちらも「得」には違いないのですが、
序盤では手の損得があまり大きく響かない場合が結構あります。実際、最近まで流行していた後手一手損角換わり戦は、
後手が自ら角交換に行って敢えて手損をすることで無駄な手を指さずに指そうという作戦ですし、
横歩取り先方も敢えて手損をしながら歩得する作戦です。序盤はできるだけ自分の駒台に歩を乗せることで
仕掛けがしやすくなり主導権を握って戦いを進めることができます。しかし「開戦は歩の突き捨てから」、
「終盤は駒の損得より速度」というように、中盤以降は手の損得と駒の損得の価値観が変わってきます。
これは実戦を重ねる中で経験を積めばわかってくると思います。
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格言 | 終盤は駒の損得より速度(信頼度★★★★★) |
意味 |
序盤、中盤、終盤では局面の捉え方や価値観が全く異なってきます。前述したように序盤は手得するよりも歩得した方が有利であることが
多いですが、中盤では歩の損得がそれほど重要ではなくなります。しかし駒の損得は依然として重要です。
しかし終盤になると玉の寄せ合いになり一手を争う状況になるため、速度が重要になります。
終盤になってのんびりと相手の駒を取る手を指していると、その間に自玉に迫られて受けなしに追い込まれてしまいます。
どんな駒を何枚持っていても受からない状況に追い込まれてしまえば、駒を取る手自体が全く意味のない無駄な手になってしまいます。
但しだからと言って無暗に駒を捨てて切り込んでいけばよいというわけではありません。
相手に駒を渡しすぎると自玉にとんでもない詰み筋が生じることがあるため注意が必要です。
あくまで自玉の危険度を図りながら、速度も重視するというバランスが必要になるわけです。
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格言 | 二枚換えなら歩ともせよ(信頼度★★☆☆☆) |
意味 |
二枚替えというのは、自分の駒1枚と相手の駒2枚を交換することです。通常は2枚替えが実現すれば成功と言われていますが、
その2枚替えは飛車、角などの大駒なら金銀など金駒2枚なら大成功、金駒1枚と桂馬・香車いずれか1枚であればまずまず成功
という一応の基準はありますが、飛車と銀桂の2枚替えはやや微妙なことも多いです。
そのうち一枚の駒が歩であっても2枚替えをせよというのは、例えば、飛車と相手の香車と歩であっても2枚替えをしなさいということであり、
いくらなんでもこれはやりすぎだと思います。よくあるのは角と金1枚・歩1枚の2枚替えで、これも穴熊戦では有効であることがありますが、
それはそもそも穴熊戦では角よりも金の方が価値が高いケースが結構あるからであって、この格言を肯定する材料にはなりません。
この格言は信じるとバカを見るケースの方が多いようですので、気を付けて下さい。
2枚替えの基準として飛車なら金銀、角なら金(銀)1枚+桂(香)1枚、銀なら桂・香と、これくらいなら十分ですが、
2枚替えの対象として「歩」はカウントしない方がよいと思います。
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格言 | 不利な時は戦線拡大(信頼度★★★★☆) |
意味 |
将棋において「有利なときはできるだけ分かりやすい手で」というのが鉄則です。相手がアヤと紛れを求めて局面を複雑化する意図で
指してきた場合にはそれを相手にせず初志貫徹した方がよいことが多いです。
「不利なときは戦線拡大」というのは、相手に分かりやすい手で来れないように、色々なところにアヤを付けて
局面を複雑化することで紛れを求める指し方を言います。こうすれば有利な相手がミスをする可能性が上がります。
いつも有利な将棋ばかり指していられるのなら気持ちが良いですが、実際はそのようなわけにはいきませんし、
不利な将棋もある程度逆転して勝たなければ勝率は上がってこないため、この格言は勝率を上げるためにも有効な教えです。
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格言 | 攻めは飛角銀桂(信頼度★★★★☆) |
意味 |
この「攻めは飛角銀桂」という格言は「玉の守りは金銀三枚」という格言とセットです。
守りと攻めの駒の使い方の基本を示しています。ここに香車がいないのではないか、と思うかもしれませんが、
香車は1筋、9筋にしかいないのですが、戦いは中央で有利に持って行った方が局面を制圧できる可能性が高くなります。
玉を金銀4枚で囲って、飛車・角・桂馬で軽くさばくという戦術もありますが、銀が攻めに参加しないと攻め筋が軽く薄くなるため、
さばきのテクニックが相当ないと成功しない可能性が高いです。
飛車、角、銀、桂馬を活用・総動員して上手く攻めが成功すれば、有利な終盤に突入して勝利に大きく近づきます。
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格言 | 寄せは俗手で(信頼度★★★★☆) |
意味 |
「俗手」というのは「妙手」と対極にある手で、「分かりやすく平凡な手」ぐらいの意味です。
優勢なときの寄せは「分かりやすく」が基本です。妙手をひねり出すのが求められるのは互角の形勢の終盤、
鬼手は劣勢の終盤を逆転する一手として飛び出すことがありますが、優勢な終盤では妙手や鬼手は必要ないばかりか、
何か読み抜けがあると逆転のきっかけを与えることもままあります。優勢な終盤では分かりやすい手で
相手玉に平凡に迫っていくのが最も間違いが少なく勝ちやすい方法です。
優勢な終盤での「一手一手の寄せ」というのは、この「俗手」が基本となります。
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格言 | 勝ち将棋、鬼の如し(信頼度★★★★☆) |
意味 |
勝ち将棋というのは、駒の配置や持ち駒から自分が序盤に何気なく指した一手まで、終盤になってから
何もかもが上手く効いてくる、その不思議な運や流れが何もかも自分に味方してくる恐ろしさを例えて、
「鬼の如し」と表現しています。自分はこの終盤戦を予想してここまで指してきたわけではないのに、
序盤に何気なく突いた歩までが相手玉の詰みに効いてくるといった状況は皆さんも経験があると思います。
勝負には理屈では説明できない不思議な「流れ」があることをこの格言は教えています。
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格言 | 名人に定跡なし(信頼度★★★★☆) |
意味 |
定跡というのは様々な戦型において先人たちが実戦を重ねることで築き上げてきた手順ですが、
将棋界において最も名誉あるタイトルで棋界最強の称号でもある名人は、そのような定跡にとらわれない
柔軟な発想で指すという意味で用いられます。昭和の大名人の1人、故・升田幸三九段は
「新手一生」を掲げて定跡にとらわれない指し方をしたことで有名ですが、この格言は、まさに升田幸三九段にこそ
最もふさわしいものと考えています。「升田幸三賞」は、既存の定跡にとらわれない
柔軟な発想で自分なりの戦法、新手を編み出す棋士に与えられるものであることは皆さんもご存知の通りです。
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格言 | 大駒は離して打て(信頼度★★★★☆) |
意味 |
「離して打て」というのは、相手玉から遠いところに打てということです。
近いところに打つのが何故いけないかというと、相手が玉の守り駒を動かしたり打ったりして弾かれて
後手をひいてしまうからです。「風邪をひいても後手引くな」という格言もあるように、
将棋においては後手を引くのは非常に嫌なものです。
大駒は相手に取られたくない大切な駒ですが、近いところに打って金駒で弾かれて後手を引いてしまうのは
一手を争う終盤では致命的な結果になることが多いです。一方、離して打っておけば直接弾かれる心配はなく、
手番を握って攻めが続けられます。
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格言 | 大駒は近づけて受けよ(信頼度★★★★☆) |
意味 |
前出の「大駒は離して打て」の格言を、それを受ける相手の立場に立った格言で、この2つの格言は
コインの裏表と言えます。大駒を離して打ってきた相手に対して、ただ単に駒を打って受けるのでは
相手の手番が続いてしまい、先手を取ることができません。しかし歩を突き捨てたり打ち捨てたりして
それを同飛車または同角と取らせてから金駒で受ければ大駒を弾くことができ先手が取れます。
従って、近づけて受けるために歩を捨ててくる場合、あえてその歩を取らないで何か良い手を探すことが有効です。
将棋では後手を引かないことがとにかく大切です。
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格言 | 浮き駒に手あり(信頼度★★★★☆) |
意味 |
「浮き駒」というのは、味方の駒の効き、つまりヒモがついていない駒のことで、「離れ駒」という言い方もありますが意味は同じです。
「浮き駒」、「離れ駒」は金駒を指す場合がほとんどで、大駒や飛び駒、歩などはヒモがついていなくても「浮き駒」ということは通常ありません。
金駒が浮いている場合、それよりも価値の高い駒(つまり大駒)でその駒を狙う手が先手になります。
その駒を取ると見せかけて別のことを狙うなど、何かと手を作りやすくなります。
従って浮き駒はできるだけ作らないように駒組を進めることが大切で、
浮き駒ができる場合には隙を作らないような指し方をすることが重要です。
駒組をするときには一瞬、浮き駒が生じることがありますが、その瞬間を捉えて機敏に仕掛けると
上手くいく場合が結構あります。
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格言 | うまい手には気をつけよ(信頼度★★★★☆) |
意味 |
うまい手というのは、自分にとっていかにも都合の良さそうな手のことです。例えば「あれ、これは相手の見落としなのかな、
ここにこれを打って簡単に優勢になりそうだけど」という局面で手拍子で指すのではなく、
本当にそれでよいのかと一度立ち止まって考える慎重さが必要ということです。
簡単に優勢になりそうな手を相手が放置するということは、本当に見落としではなく、何か罠があるか、
それを上回る相手の好手があるからこそ、とも言えるわけです。だから気を付けなければならないわけです。
将棋にはそう簡単に優勢になるような手を相手が許してくれるはずがないという前提で指す慎重さが求められます。
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格言 | 両取り逃げるべからず(信頼度★★★★☆) |
意味 |
両取りというのは自分の安い駒で相手の高い駒の両方に「取り」をかけることです。
例えば相手の大駒や金駒が1間とびでいる場合、桂馬を打つことで「両取り」がかかります。
一方の駒を逃げてももう1方の駒が取られてしまいますが、「両取り」とはいえ、逃げなかったとしても取れる駒はどちらか一方のみです。
それなら駒を逃げるのではなく相手が駒を取っている一手の間に自分も有効な手を指した方がよい、ということです。
相手もそのことを知っているので、両取りをかけた駒がどちらも逃げない状況で1手かけて駒を取るのはばかばかしくて指しにくい
という気持ちになるものです。森下システムの森下卓九段は「両取り取るべからず」とも言っているくらいです。
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格言 | 駒得は裏切らない(by 森下卓九段)(信頼度★★★★☆) |
意味 |
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格言 | 矢倉は将棋の純文学(by 米長邦雄永世棋聖) |
意味 |
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